はじめに
こんにちは、プラットフォーム部の近藤です。
2025年4月9日〜11日にアメリカ・ラスベガスで開催された「Google Cloud Next 2025」*1に、私とCTOの野口の2名で現地参加してきました。
会社全体での Google Workspace の利用や、前回の記事で取り上げた Google Kubernetes Engine (GKE) など、その他にも様々に弊社では Google Cloud を活用しています。 tech.stmn.co.jp
弊社の海外イベントへの参加は、2019年の AWS re:Invent 以来です。 tech.stmn.co.jp
Looking Back on Next '25 and Its Theme
2025年の振り返りにあたり、過去のイベントも改めて整理してみます。
コロナ禍を経て久しぶりのオンサイト開催となった Next’23 は、Google Cloud が 生成AI へ本格的に参入する姿勢を明確に示した年でした。Google Cloud は、Duet AI をGoogle WorkspaceとGoogle Cloud Platform 全体に導入する方針を発表しました*2。この時期はちょうど OpenAI の ChatGPT が大きな話題となっていた頃でもあります。
続く Next’24 では、Duet AI は Gemini へとリブランディングされ、発表されました。Gemini Code Assist や Gemini Cloud Assist といった、各分野の専門的なタスクを支援するAIアシスタント群が登場し、汎用的なAIアシスタンスからより特化した機能への流れが見られました。これにより、AI は単なる受動的な情報提供に留まらず、能動的なタスク実行へと進化する可能性が示されました*3。
これまでの流れを踏まえて Next'25 を振り返ると、AIエージェント時代 の本格的な幕開けと、Google Cloud がその実現に必要な技術スタック全体を構築するという明確な戦略が打ち出されたイベントでした。特に、Agent Development Kit (ADK) やオープンな Agent2Agent (A2A) プロトコルの発表は、マルチエージェントエコシステムという新たなAIの枠組みを示唆するものでした*4。まさに、汎用的な生成AIから、より高度なAIエージェント、そしてマルチエージェントエコシステムへと時代が進んでいく方向性が、鮮明に示されています。
The full stack of AI Innovation
Keynote でエージェントが強く打ち出されていたことは、エキスポエリアの活況からも如実に感じ取ることができました。多くのパートナー企業が、それぞれのデモを積極的に展示・紹介していました。デモの多くは、AIワークフローと呼ばれるものかもしれませんが、ともあれAIエージェント時代への移行期にあることを肌で感じられる場でした。
その中で Google Cloud は、この新たな AI エージェント時代を本格的に推進するため、AI ハイパーコンピュータ、高性能な基盤モデル、エージェント開発・実行環境、そして多様なエージェントそのものに至るまで、エンドツーエンドの技術スタックを網羅する統合的なプラットフォームプレイヤーを目指す戦略を明確に示しました。
具体的には、AIワークロードを支える AI ハイパーコンピュータとして、第7世代TPUである Ironwood が紹介されました。また、エージェントの基盤モデルとしては、高い性能を持つ Gemini 2.5 の発表がありました。さらに、エージェントの開発、管理を効率化するための Vertex AI の大幅な機能強化 や、Google Agentspace のようなエージェント関連の具体的な取り組みも紹介され、エージェント構築のための包括的な環境が整いつつあることが示されました。
Multi-Agent Ecosystem
イベント参加当時まで、AIエージェントをまだ先の未来の話だと捉え傍観していた私にとって、Next'25 のセッションやエキスポエリアで目にした発表の数々は、驚きと同時に焦りを感じさせるものでした。そして、Google Cloud が提唱した Agent2Agent (A2A) *5に基づくマルチエージェントエコシステムという新たな枠組みには、特に大きな衝撃を受けました。
ところで、2024年11月に Anthropic が公開した Model Context Protocol (MCP) の注目が、現在高まっています*6。MCP は、AI アシスタントが外部のデータソースやシステムと連携するためのプロトコルとして提案されています。MCP が AI とツール間の連携を目的とするプロトコルであるのに対し、A2A はエージェント同士がセキュアに相互に連携するためのプロトコルという点が異なります。A2A は単体のエージェントの能力拡張を目指す MCP を補完し*7、エージェント間の協調によるエコシステムを実現する可能性を秘めています。
こうしたエージェント間の連携が進めば、各エージェントは特定の役割や専門領域に特化(バーティカル化)していく方向に進むと個人的には想像しています。MCPに関してはセキュリティ上の懸念も指摘される中、A2A がセキュアなプロトコルを目指している点も、印象深く感じられました。
これらの新たなプロトコルが、今後スタンダードな地位を確立できるかは現時点では不透明です。しかし、紛れもないリーディングカンパニーである Google がこれを主導する姿勢を見せたことには、個人的にも大きな期待を寄せざるを得ません。A2A の発表パートナーリストには Anthropic の名前が見当たらなかった点は気になります。MCP を主導する Anthropic が A2A に対して今後どのような見解や動きを見せるのか、引き続き注目していきたいポイントです。一方で、Google が Anthropic へ追加投資を行ったことも記憶に新しく*8、両社の良好な関係が維持されることを期待しています。
The Innovation of GKE
せっかくなので、セッションについても簡単に取り上げさせてください。イベント全体の話題の中心は AI でしたが、個人的には Google Kubernetes Engine (GKE) のアップデートに関するセッションにも注目していました。特に、「GKE turns 10 and looks to the future of Kubernetes」というセッションでは、GKE の10周年を記念しつつ、次世代の GKE イノベーションについて具体的に紹介されていました。
本セッションでまず強調されていたのは、Google Cloud が大規模クラスタのスケーラビリティに重点的に投資している点です。具体的に 65,000ノード規模のクラスタをサポートするという話は、大規模なエンタープライズ顧客や、複雑かつリソース消費の多い AI ワークロードを GKE 上で実現していくことの、明確な意思表示と言えるでしょう。
そうした発表の中でも、私が個人的に思わず声をあげそうになったアップデートが、In-Place Pod Resizing です。Kubernetes v1.27 でアルファ機能として導入された、コンテナを再起動することなくポッドに割り当てられた CPU/メモリリソースのサイズを変更できる機能です*9。Kubernetes v1.33 では、ベータ版に移行されました*10。現在、弊社で稼働している GKEクラスターでは Vertical Pod Autoscaler (VPA) を利用したポッドのリソース調整も行っていますが、再起動が発生するという点がまさに運用上の課題となっていました。この In-Place Pod Resizing 機能が、GKE Autopilot 1.33 以降でアルファ/ベータとして利用可能になる見込みとのことで、非常に期待できるアップデートです。
おわりに
今回の Google Cloud Next には、業務の一環として参加させていただき、会社に宿泊費と交通費を負担していただきました。不在中に業務をサポートしてくれたメンバーにも、この場を借りて改めて感謝を申し上げます。
イベントでの様々な発表やデモに触れる中で、私自身の AI 利用がまだ限定的であること、そしてもっと積極的に、高い解像度で活用を進めていく必要があることを強く実感しました。特に、2025年1月からは Google Workspace 全プランに AI が標準搭載されており、まずは身近なツールから積極的な活用を図っていきたいと考えています。
また、イベントを通じて AI エージェント時代におけるプロダクトマネジメントのあり方にも、個人的な関心が大きく高まりました。AI が業務を劇的に効率化する可能性は明らかであり、プロダクトの提供側としては、この強力な AI をいかにプロダクトに組み込み、ユーザーに新たな価値として届けていくか、が今後ますます重要になってくると予想されます。ひとりの技術者としても、AI の理解を深め、そのポテンシャルを最大限に引き出し、社会に貢献できる形で価値を提供していく責務があると感じています。
弊社では、エンジニア採用を積極的に行っています。少しでも興味を持っていただけたら、ぜひまずはカジュアル面談でお話しできればと思います。 herp.careers
*1:https://cloud.withgoogle.com/next/25
*2:https://cloud.google.com/blog/topics/google-cloud-next/next-2023-wrap-up?hl=en
*3:https://cloud.google.com/blog/topics/google-cloud-next/google-cloud-next-2024-wrap-up?hl=en
*4:https://cloud.google.com/blog/topics/google-cloud-next/google-cloud-next-2025-wrap-up?hl=en
*5:https://developers.googleblog.com/en/a2a-a-new-era-of-agent-interoperability/
*6:https://www.anthropic.com/news/model-context-protocol
*7:https://google.github.io/A2A/#/topics/a2a_and_mcp.md
*8:https://www.nytimes.com/2025/03/11/technology/google-investment-anthropic.html
*9:https://kubernetes.io/blog/2023/05/12/in-place-pod-resize-alpha/
*10:https://kubernetes.io/blog/2025/04/23/kubernetes-v1-33-release/#beta-in-place-resource-resize-for-vertical-scaling-of-pods