
はじめに
こんにちは、株式会社スタメン 東京プロダクト組織のエンジニアリングマネージャー まっきーです。先日、EMConf 2026 に参加してきました。EMとして日々悩みながら手を動かしている身として、組織のあり方・マネジメントの考え方・技術と人の接点まで、自分に刺さるセッションが多いカンファレンスでした。
今回の記事は、印象的だったセッションと、参加して得られた気付きを参加レポートとしてまとめたものになります。
冒険する組織のつくりかた
「軍事的マネジメント」から「冒険的マネジメント」へのパラダイムシフトの話でした。
マネジメントという概念が生まれたのは1900年代、工場の生産ラインの安定化が目的でした。その延長で「兵隊の訓練」がフレームワークになり、目標の達成・統制・危機感の醸成といった発想が根付いていきました。一方で、ここ2〜30年で会社中心から人生中心のキャリア観へと世の中が変わり、1980年代型の「危機感を煽る」やり方は人材流動性の高い今では通用しなくなっているという話でした。
そこで提案されていたのが、半径5mからできる4つのマネジメントです。
① 目標:SMART と ALIVE の両立
軍事的マネジメントは「目標に対する視野狭窄」を生みがち。一方、冒険できる組織では、
- SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)
- ALIVE(Adaptive, Learningful, Interesting, Visionary, Experimental)
の両立が重要だという話でした。チームで「ALIVE を達成できているか」を問い直す時間を作ることで、明確な目標設定をすることができそうだと感じました。
組織づくりは、組織に張り巡らされている「目標設定」の網の質を変えていくところから。
— 安斎勇樹 / 最新刊『静かな時間の使い方』予約受付中 (@YukiAnzai) 2024年9月10日
最近は具体的な目標を立てる際には従来の"SMART"に加えて"ALIVE"になっているかどうかを意識しています。
#154 SMARTに代わる、目標設定の新法則「ALIVE」 - 安斎 勇樹https://t.co/EgGPba9qnm#Voicy pic.twitter.com/S78SSI757c
② 会議:問いの質
「ミーティングで反応が悪いのは、メンバーのせいではなく、ファシリテーターの問いが悪い」という話を聞き、自分がファシリテーターの時のミーティングは時々こうなっていることに気付きました。対策として、選択肢を絞るような問いにすることで、議論が動きやすくなるとのことでした。これについてはカンファレンス参加後のミーティングから意識するようにしています。
③ 興味:好奇心と興味の違い
- 好奇心:瞬発的な感情
- 興味:好奇心が継続し、一定の対象に定着している
AI時代には散漫な好奇心より、深い興味が重要。
興味 =「レンズ(どんなものの見方で)」×「対象(なにを見るか)」という表現をされていました。 数年後のビジョンをいきなり立てるより、「いま何が面白いか・興味があるか」を大事にする方という考え方は、目標を立てるのが苦手な自分には少し肩の荷が降りるものでした。
④ 文化:風土と文化は違う
風土の改善だけでなく、文化を耕す。価値基準の集合体が文化であり、皆が集まる場で繰り返し伝え、刷り込み続ける。耕し続ける姿がなければ、マネージャーの「本気」も伝わりにくく、共感も生まれにくいという話は、マネージャーとしての立ち位置を改めて認識させられるものでした。
自律型組織の真実:『甘い自走』を捨てて導いた、EMによる戦略的組織変革
「自走」という言葉が一人歩きし、マネジメント放棄に近い状態になってしまうケースについてのセッションでした。
甘い自走の結果として、
- 生産性低下・士気低下
- 技術的負債の放置
- 現場の混乱がそのまま事業の停滞に直結
といった問題が起きます。そして「目的とゴールを浸透させる」「評価制度を見直す」「1on1を増やす」といった重い仕組みの追加では、組織が死んでしまうだけ。
重要なのは、
- 自律 ≠ 自由
- 自律 = 「境界線(ガードレール)」と「責任」のセット
「ここまではノーブレーキでOK、ここからは止まれ」を決める。最もレバレッジが効くのは「意思決定」に集中する。意思決定ができると、ドミノ倒しのように仕事が進んでいく、という話でした。
この話を聞いて、まず自分自身が仕事に対して責任範囲をきっちりと決めきれていないことに気付きました。そんな状態では、メンバーに対して自律して動いてくださいなどと言えるはずもありません。 メンバー目線で見ても境界線を定めてくれるマネージャーは間違いなく信頼できるので、今後身につけていきたいスキルだと強く感じました。
「ストレッチゾーンに挑戦し続ける」ことって難しくないですか? メンバーの持続的成長を支えるEMの環境設計
在籍歴の長いエンジニアの退職申し出をきっかけに、ストレッチゾーンのチャレンジが枯渇してしまう問題にどう向き合うかを扱ったセッションでした。
- 「今の自分に最適なチャレンジが分からない」という状態に対して、will / can / must で現状分析する。
- ただし、自分の will を正しく言語化できるとは限らないため、must と噛み合わずアクションが生まれないことがある。
- そこで、will を一度抽象化(例:レガシーコードを刷新したい → 意思決定がしたい)してから具体化(テストカバレッジ改善など)する
また、目標設定に失敗してしまうパターンとして - 経営がうまくいっている企業では、分かりやすいストレッチな目標が減り、インパクトの弱い仕事を選んでしまう -「退屈だが自分の価値が出せる仕事」は魅力的で選びがちだが、野心が削がれ、低い目標設定につながる - 忙しさを理由に「できなかった」を発生させてしまう
という話があり、目標を立てるのが苦手な自分にはかなり耳の痛い話でした。
これらへの対策として、
- メンバー間の目標の可視化
- 裁量範囲の言語化と権限委譲(「どこまでやっていいか分からない」をなくす)
- span of control の上限を意識し、マネージャーがボトルネックにならない仕組み
が挙げられていました。
組織・文化・技術の壁に挫折したEMが、アーキテクトとして「構造化思考」を手に、再び保守開発組織の変革に取り組む
ピープルマネジメントに注力すればよいと思っていたが、コード品質の悪さとチームの疲弊という構造的な問題に直面し、仕様やテストの重要性を説くも場当たり的対応に終わり、撤退を選んだ経験から、EM がアーキテクトとして「構造化思考」を手に再挑戦する話でした。
また、AI は増幅器である というお話もありました。属人的プロセスやレガシーを放置したまま AI を導入すると、カオスと技術的負債が爆発する。是正すべきは次の3つの「モデルのずれ」です。
- How 領域のずれ
実装工程を AI に任せるなら、AI がコードを実装するワークフローをエンジニアリングする。 - What/Why 領域のずれ
要求を整合させ、価値あるものを創るために、要求の3階層(ステークホルダ要求・ビジネス要求・ソリューション要求)を意識する。 - 組織境界とシステム間のずれ
境界を見極めてモジュールとして切り出す。とにかく思いついたら図にして共有する
変化を起こすには、組織・チームの目標に据えなければ「余力で進める」からは逃れられない。EM が本気で取り組まなければ進まない。属人的でその場しのぎの対応に終わらせない。「EMはビジネス・システム・チーム・技術の関係(構造)をデザインせよ」は常に心に留めておきたいと思いました。
まとめ
EM歴9ヶ月の状態で参加した今回のEMConfでしたが、参加前までは開発組織の抱える課題に対して、EMという立場からどのように立ち向かっていけばよいか分からない状態でした。今回様々な知見を得られたことで、そういったぼんやりとした状態から少し脱することができ、また自身がEMとしてやりきれていない事が浮き彫りになりました。特に、「自律して動いており開発生産性の高い組織」とはどのようなものかについては、セッションごとに共通しているテーマがあり、私自身としては「権限委譲が適切にできていること」「目標がはっきりしていること」だと感じました。 直近でAIによりソフトウェア開発の根本が全く変わってしまったこと、スタメン内部の開発組織の構造も大きく変革が進む中で、いかに組織の課題解決のために時間を使っていけるかが、組織・自分自身ともに勝負だと感じたので、今回のカンファレンスで得られた知見を具体的なアクションに落としこんでいければと思います。